ラ・ヴィレット公園設計競技の最終2案

 透明性、コラージュ、構成主義といった近代芸術の技法を用いながらも、予定調和でない空間の形を提示したのが、ラ・ヴィレット公園設計競技(1983年、パリ)の当選案(ベルナール・チュミ)と2等案(レム・コールハース)である。本設計競技では、従来のものと異なる新しい都市公園を提案することが求められた。審査の過程で最終まで比較議論された両案に共通したのは、利用形態を想定するゾーンとして空間を分割し形を決めるのではなく、予測不可能な行為や出来事を誘発し得る形を探究したことである。

 チュミは、偶然の出来事に遭遇する都市の現実を、点(フォリーと呼ぶ10m立方体で中身可変の建物)、線(園路、並木)、面(広場、グランド、芝生、池)の重ねあわせで生じる様々な組み合わせという形で表現した。そうすることで、例えば、ジャズバーのフォリーと園路が2階部分で交差し、ジャズの演奏中にジョギング中の人が目の前を横切る、といった偶然の出来事が起こるよう期待した。

 一方、コールハースは、畑作、釣り、乗馬、凧揚げといった自然を対象とする体験を徹底的に案出し、それらの体験できる空間を帯状に連続させ、敷地いっぱいに帯を並べた。そうすることにより、トラクターで畑を耕している横ではプールで水泳を楽しむ風景が、さらにその横では丘の上で凧揚げを、といった異種体験が隣接する状況が生じることを期待した。オフィス、オイスター・バー、ボクシング・ジム等の異種空間が鉛直方向に積層するニューヨーク・マンハッタンの超高層ビル群から想起された形である。

 従来型の計画による形と比較して、両案が非予定調和的であるかどうか、検証は難しい。むしろ、形を最初から造り込んでいくと、どんな形であれ予定調和性が強まる可能性がある。両案の試行から学ぶべきことは、魅力的なドローイングによって示された完成形ではなく、いかなる関係性や状況をどのような形で創出するかということである。そのためには、場の観察からはじめて、具体的に空間の形を変える段階に至っても、一気に完成までもっていくのではなく、継続して空間と関わり続けることがデザイナーに求められる。

 

ダウンズヴュー・パーク設計競技の最終案

 空間に対する関わりが継続し形が変化するプロセスこそ、ランドスケープ・デザインの本質だといえる。ローズが示した空間のモルフォシスという視点の先には、不特定多数の市民が空間との関わりをもつプロセスのデザインがある。

 ダウンズヴュー・パーク設計競技(1999年、トロント、カナダ)では、市に長期貸与される128haの空軍跡地を対象として、生態、歴史、余暇の視点から、長期的かつ柔軟な公園形成プロセスの提案が求められた。

 170余の提案の中から以下の5案が最終選考に進んだ。立ち現れるランドスケープ(ブラウン・アンド・ストーニー・チーム)、立ち現れる生態(コーナー・アンド・アレン・チーム)、新たに統合されるランドスケープ(エフ・オー・エー・チーム)、樹木都市(オー・エム・エー・チーム)、デジタルとコヨーテ(チュミ・チーム)。後者2案は奇しくもラ・ヴィレットの最終2案と同じデザイナーによるものである。

 これらの案のタイトルが示すように、各案とも跡地の景観変化の長期シナリオを描いている。各チームは生態や水文の専門家と建築家やランドスケープ・デザイナーの混成である。例えば、凹凸の地形を造成し、水分条件の違いを造り出して、湿地、草原、落葉樹林などの多様な植生と環境を創出する(コーナー・アンド・アレン・チーム)、クローバーを蒔いてすきこんだ後に麦を育て土作りをするところからはじめる(オー・エム・エー・チーム)といった土地の継続的な管理を前提として、スポーツ、文化、余暇プログラムの育成を描いている。

 これらの案を示した、建築やランドスケープの領域で最先端をいくデザイナー達が、完成形を描いてみせるのではなく、土地への継続的な関わり方と結果としての形の変化を示したことは特筆すべきである。つまり、空間との関わりを深めるほど、形の意味も深まるという認識が、これからのデザイナーには必要である。

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