Laboratory of Landscape

村上修一研究室

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形態の曖昧性とは?

形態の曖昧性を,「一つの空間について,形の解釈が複数成り立ち得ること」と,本研究では定義します。この多重解釈性は,時空間体験の豊かさをもたらすと考えられます。

形態の曖昧性は,ジークフリート・ギーディオンによる絵画と建築の比較分析に認められます(1)。ピカソ作の絵画「アルルの女」に描かれた人物像の輪郭線をなぞると,下図のように,横と正面の2方向の顔を抽出することができます。また,グロピウスが設計した「デッサウのバウハウス校舎」の写真をなぞると,下図のように,ガラス壁で包まれた箱と,柱や梁で支えられた板の積層という2通りの形を抽出することができます。双方に共通するのは,透明な面の重なりによって,2通りの形が同時に見える,ということです。



形態の曖昧性は,コーリン・ロウとロバート・スラツキーによる絵画と建築の比較分析にも認められます(2)。レジェ作の絵画「3つの顔」に描かれた要素の前後関係を読み取ろうとすると,下図のように,何通りもの解釈が可能です。また,コルビュジェが設計した「スタイン邸」の正面ファサードの形を読み取ろうとすると,下図のように,何通りもの解釈が可能です。これらは透明な面の重なりによるものではありません。不完全な形の要素の構成によるものです。





このような形態の曖昧性は,視覚芸術と空間デザインにおける近代主義者たちの試行の成果と考えられます。では,ランドスケープの作品にも形態の曖昧性は認められるのでしょうか。

(1) Sigfried Giedion, Space, Time and Architecture: The Growth of a New Tradition (Fifth Ed. Cambridge, MA: Harvard University Press, 1967) 494.
(2) Colin Rowe and Robert Slutzky, Transparency. Trans. Jori Walker (Basel: Birkha user, 1997) 30.

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